8 圧力損失

 前回をまとめると、『熱交換するような場合は乱流だから、圧力損失は常に考慮しましょう』ということです。

 そんなわけで分散機の圧力損失を考慮しましょう。

 分散機に冷水を流すところはジャケットと読んでいます。

 分散機のジャケットの中は写真のようになっています。錆だらけですが、材質そのものはゴムです。

 細い流路が螺旋状になっています。  ジャケットの材質、構造は様々で、全部が鉄の場合もあります。分散機程度の大きさであれば、シールや保温を兼ねてゴムでジャケットと形成する考えも納得できます。金型さえあれば、安くできます。全部を鉄やステンレスで作ると、全部を人が作ることになって割高になってしまうし、シール性の問題も出てきます。分散機の場合は、ベセルが磨耗するので、ベセル(内筒)だけの交換を可能にするためにもゴムでジャケットを製作するのは都合が良いわけです。

 反応槽とかだと分散機みたいにはいきません。反応槽とかのジャケットは鉄またはステンレスで製作されるのが一般的です。反応槽の大きさにもよりますが、強度の問題を優先すると鉄やステンレスを採用することになります。仮に強度を満足したとしても、ゴム等の樹脂材料を成型が難しく、金型を製作するにしても費用がかかりすぎるので現実的な方法ではありません。

 ジャケットの冷水が流れる流路の形は様々です。半円だったり、楕円だったり、四角だったり、四角でも平べったかったり、そうでなかったり。分散機の場合はほとんどの場合が四角です。日本標準品は材質がゴムで、平べったい流路をしています。海外のものは、ベセルを日本から輸出してジャケットだけを海外で作っていたりするので、材質が鉄で、流路も比較的厚みのある四角だったりします。仕様をよく確認すると気付くのですが、気にしていないと見落とします。

 実際の分散機のジャケット部圧力損失を計算してみましょう。

 ジャケットのイメージ図です。

 たとえば、流路が幅37mm高さ6.3mmの平たい流路とします。この流路が螺旋状でベセル(内筒)に巻きついています。これを一直線に伸ばすと、約1.8mなります。勘が良いと、細っ!、長っ!って気付く方もいるかもしれません。実際に細いし、長いのです。

 流路が四角なので、圧力損失を計算するためには、一旦、丸管とした場合に置き換えることが必要になります。四角の流路を丸管に置き換えたときの径を相当直径と呼びます。これには公式があるので、式を覚える必要はありませんが、相当直径という考え方があることを覚えておきましょう。必要になればすぐに調べられます。

 この式を使って、相当直径を計算すると、De=10.77mmとなります。8Aの配管より少し太いぐらいです。100L/minの流量を流すにしては、細いような・・・。

  この相当直径と圧力損失の式を使えば、圧力損失が計算できちゃいます。

 圧力損失の計算結果を縦軸に圧力損失、横軸に流量としたグラフで示しました。

 100L/min(45kWを冷やす場合のほぼ目標流量)の流量を流した場合、圧力損失は0.8MPaを超えています。配管の圧力損失を考えると、ポンプの揚程1MPaぐらいになってきます。

 でも、ジャケットの耐圧は0.5MPaもないので、1MPaも圧力をかけると破れます。ジャケットにかける圧力を0.2MPa(配管の圧力損失とか設置位置を考慮すると、これぐらいが妥当)とした場合、45L/minぐらいしか流れません。もうちょっと頑張っても、50L/minぐらいが精一杯です。

 これじゃあ、目標の100L/minの半分にも届きません。

 困りました。冷却熱量も計算して、流量も分かっているのに、流せないという事態に陥りました(実体験です)。

 でも、冷やさなくちゃいけないので、何とかするしかありません。あなたならどうしますか?

 必要な冷却熱量が決まっているので、冷水の温度を下げるか、圧力損失を小さくするかの2択です。冷水の温度は10℃ぐらいが安定して作れる限界なので、冷水温度を下げるのは基本的にダメです。お金が余って余って困っているなら、ブライン(冷媒)という手段もありますが、普通は無理です。というわけで、100L/minの流量を流すためには圧力損失を下げてやるしかありません。

圧力損失を下げる方法をいくつもあります。

《圧力損失の式》

 式から圧力損失を下げる方法が分かります。こういう式があると便利ですね。

 ①摩擦損失係数fを小さくする

 ②流路Lを短くする

 ③径Dを大きくする

 ④流速Vを小さくする

 操作できる可能性のあるのはこれくらいです。重力gは変わりません。

 流速を小さくするとレイノルズ数も小さくなるので、摩擦損失係数は大きくなってしまいます。流したい流量は決まっているので、流速を小さくするためには、径を大きくするしか方法がありませんので、結局のところ①と④は、③によって決まります。圧力損失は流速の二乗に比例するので、摩擦損失係数の影響より大きい。よって、圧力損失を小さくするためには流速を小さくするほうが有利ということになり、そのためには径を大きくした方が良いということになります。

 でも、径を大きくするためには、ジャケットを作り変えることになります。標準品は金型でゴムを成型して作っているので、金型から作り変えるのは、費用の面で現実的ではありません。かといって、鉄やステンレスで製作するとシール性の問題やメンテナンス性が悪くなります。よって、現実的な方法としては、流路Lを短くする方法しかありません。

 隠れた理由もあります。前回にも説明しましたが、熱交換を行う場合は乱流の方が有利というのがその理由です。言い換えれば、レイノルズ数が高ければ高いほど有利です。厳密な理由は難しいのですが、私の感覚だと、管内でよく混ざるからです。

 実際に実施した改造例です。

 ジャケットを3分割にして、冷水を並列に3系統通水できる仕様としました。

 3分割したことで、圧力損失が1/3になり、同時に3系統通水できるので、流量は一気に5倍(250L/min)ぐらい流せる計算です。2分割だと、130L/minぐらいしか流せない計算です。

 今回は、圧力損失を常に考慮していないと、困ったことになるかも、という内容でした。

 必要な冷却熱量を計算して、高温側と低温側の温度差を20℃以上確保して、流量を計算して、圧力損失が大丈夫か確認できたら分散機の冷却は万全です。

次はもっと面倒な空調機について勉強していきます。

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