6 冷水流量の決め方

 前回の復習から。

  • 分散機に必要な冷却熱量は、簡易的にはモーターの定格容量からする。

    モーター定格容量×80%=必要な冷却熱量

  • 冷水の温度を考えるのに重要なのは対数平均温度差で、低温側と高温側の温度差を20℃以上確保することがポイント。

 この2点が重要でした。

 全部を覚える必要はありません。そんな考え方があったことだけを覚えていれば、調べることができます。何度も調べれば、勝手に覚えてしまいます。

 それでは、冷水流量の計算をやってみましょう。

 45kWの分散機が2台並列の仕様で3ラインある工場を想定します。

 必要な冷却熱量は、

 45kW/hr × 6基 × 80% = 216kW/hr = 3096kcal/min

となります。

 入口温度が20℃で出口温度を45℃以下にしたいとします。冷水温度はどうしましょう?そうです。低温側と高温側の温度差を20℃以上確保したいので、冷水の温度は0℃?さすがに間違っていることに気付きますよね。

 出口温度の45℃を基準にすれば、冷水温度は25℃以下とする必要があるので、冷却設備は冷凍機が必要なことがわかります。一般的な冷凍機を導入する場合、冷水温度は10℃ぐらいということになります。これは結果的に正解なのであって、ちょっと特別な場面に出会うと、答えを導けなくなるので、どんな場面でも対応できるように考えます。分散機を冷やす目的は、モーターによって加えられた熱量を奪うことにあります。厳密には、若干の昇温は許容されますが、モーターによって加える熱量と比較して非常に小さいので無視して考えても問題ありません。

 冷却熱量を復習してみましょう。

 分散機の入口温度が35℃だったとします(ミル容量:50L、比重:1.3、比熱:0.5、分散流量:200kg/hr、メジア充填率:80%、無負荷動力:20%、運転時の負荷90%)。全く冷却しなかった場合、分散機の出口温度はどうなるでしょう?

 分散機の空間容量(ミルベースの量)

 (50L-50L×80%×60%)×2基 = 52L ⇒ 52L×1.3=67.6kg

 ミルベースが分散機を通過するために必要な時間

 67.6kg÷200kg/hr = 20.28分

 ミルベースの加わった熱量

 45kW×(90%-20%)×2基×20.28分 = 21.294kW = 18312.84kcal

 分散機出口温度

 35℃+18312.84kcal/67.6kg/0.5 = 556.8℃

 火傷するどころではありませんね。 

 では、35℃以下にするならどうしたらいいでしょうか?

 冷やすことより、どこまで温めて平気なのかを先に考えます。

 35℃のミルベースを35℃に温めるために必要な熱量を先に考えます。

 67.6kg×0.5×(35-35) = 0kcal

 ミルベースに加わった熱量からこの熱量を差し引いたものが必要な冷却熱量で、これだけの熱量を奪えば、ペーストの出口温度は35℃となるわけです。

 18312.84kcal-0kcal = 18312.84kcal/20.28分 = 54180kcal/hr

 入口温度20℃のときに必要な冷却熱量は52680kcal/hrなので、約3%の増加となります。でも、モーターの定格容量を基準にすると、

 45kW×80%×2基 = 72kW = 61920kcal/hr  >> 54180kcal/hr > 52680kcal/hr

 どっちにしても10%以上の余裕があるので、大勢に影響がないことがわかります。

 これで考え易くなりました。入口も出口も同じ温度なら、冷水温度は直感的に何度にすれば良いか分かります。

 そうです。35℃から20℃を引いた15℃以下ということになります。

 冷水は分散機から熱を奪ってくるので、入口より出口の方が高温になっているのが一般的です。ということは、出口温度が15℃以下ということになります。入口温度はどうしましょう?

 出口と入口の温度差を生み出す理由は、冷水が分散機から熱を奪ってくるからです。冷水が奪ってくる熱量は既に計算済みです。ちょっと計算してみましょう。

 分散機から奪う熱量は、

 45kW×80%×2基 = 72kW = 61920kcal/hr = 1032kcal/min

 冷水の出口温度は15℃以下でなければならないので、毎分10Lの冷水を流した場合、冷水の入口温度は何度になるでしょう。

 15 - 1032kcal/min ÷ 10L/min = -88.2℃

 カッチンコッチンに凍っています。ありえませんね。じゃあ100L/minならどうでしょう。

 15 - 1032kcal/min ÷ 100L/min = 4.68℃

 微妙なところです。実際問題として、冷水用の冷凍機では安定して4.68℃の冷水を作ることはできないので、現実的ではありません。

 冷凍機の中にも熱交換器があって、冷媒と水で熱交換をしています。冷媒で水から熱を奪うわけですが、一般的には7℃の水を作ろうとしているので、冷媒の温度は-10℃近辺です。-10℃ぐらいの冷媒と水が接触しているので、そのままでは水が凍ってしまいます。このため、冷凍機に安全装置がついていて、一般的には冷水温度が5℃ぐらいになると安全回路が働いて冷凍機を停止させます。というわけで、4.68℃はちょっと無理です。

 凍るとダメな理由がピンとこない方もいるかもしれません。凍るとダメな一番の理由は熱交換器や付帯の配管等が凍結により割れるからです。水って不思議な液体で、4℃のときに単位重量当たりの体積が最小になります。つまり4℃より温度が低くても高くても水は膨張するわけです。でも4℃より高いときは、液体もしくは気体なので、膨張しても液体なので逃げることができます。でも凍ってしまうと、蓋をするようなものなので逃げ道がなくなってしまいます。逃げ道がなくなったところで膨張すると、破裂するしかなくなります。

 では、200L/minならどうでしょう。

 15 - 1032kcal/min ÷ 200L/min = 9.84℃

 なんとなく、ええ感じの温度です。ついでに300/minならどうでしょう。

 15 - 1032kcal/min ÷ 300L/min = 11.56℃

 そんなに悪くない感じです。

 結局のところ、冷水の流量で入口温度が決まるわけですが、何が正解かわかりませんよね。正解なんかありません。でも、合理的な考え方はあります。

 思い出してみてください。エネルギー保存の法則。

 常にエネルギーは保存されます。

 分散機から奪ったエネルギーはどこに行きますか?そうです、最終的に大気に開放されます。水冷式冷凍機を使っている場合なら、大気に熱を開放する設備は冷却塔です。空冷式なら冷凍機本体ということになります。一般的に、空冷式冷凍機にしても冷却塔にしても入口-出口の温度差を5℃として設計されています。温度差を5℃より大きくすることも可能らしいですが、温度を大きくするためには放熱面積を極端に増やす必要があって、設備そのものが大きくなり過ぎる欠点があります。そんなこんなで温度差5℃ぐらいで設計するのがバランスの良い設備となるみたいです。

 最終的に大気に熱を開放する設備が温度差5℃で設計されているわけなので、冷水も温度差5℃で考えれば合理的だと思います。

 そんなわけで、冷水の温度差は5℃で考えると都合が良いです。

 ここで注意が必要です。温度差は5℃以下でなければいけません。5℃より大きいと急激に負荷が変動した場合に冷凍機の凍結防止が働きます。温度差5℃として冷水流量を決めたとして、冷水流量からポンプを選定する場合に性能曲線の線上だったりしたら、迷わずに1つ上のポンプを選定しましょう。

 では、例に戻ります。

 必要な冷却熱量が1032kcal/minなので、冷水流量は、

 1032kcal/min ÷ 5℃ = 206.4L/min

 となります。これは2基分なので、1基当たりだと103.2L/minとなり、3ライン(6基)だと619.2L/minです。

 よくやる冷水フローだと、こんな感じです。

 

 今回もあれこれ難しく説明しましたが、結果だけをみれば、

 必要な冷却熱量 ÷ 5℃ = 冷水流量

 です。簡単。

 でも、この簡単な考え方の裏には、今回説明した内容が詰まっていることを、頭の片隅に覚えておいてください。

 冷水流量は決まりましたが、実際に流せるかどうかは別問題です。

 次回は圧力損失について説明します。 

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