15 総括伝熱係数

 熱交換器の冷却熱量を計算する前に、便利な総括伝熱係数を説明します。

 総括伝熱係数は単位面積、単位時間、単位温度差(対数平均温度差)当たり伝えられる熱量を表しています。

 この数値が大きい熱交換器ほど熱交換がよく行われ、性能が良いと判断されます。

 高い温度の物質から低い温度の物質に熱が伝わる仕組みをモデルで図に示します(水蒸気-水のモデルです)。この図は中心に伝熱管があり、左側の高温蒸気の熱が右側の液体に伝わる様子を伝熱の推進力(温度差:T-t)で示しています。

 熱を伝えにくくする要素に、伝熱抵抗があります。伝熱管自身も伝熱抵抗となるので、経済性を考えて出来るだけ熱伝導率の高い材質を選ぶことが重要です。

《素材ごとの熱伝導率 単位: W・m-1・K-1

  • ダイヤモンド(C) 1000 – 2000
  • 銀(Ag) 420
  • 銅(Cu) 398
  • 金(Au) 320
  • アルミニウム(Al) 236
  • シリコン(Si) 168
  • 真鍮 106
  • ニッケル 90.9
  • 鉄(Fe) 84
  • 白金(Pt) 70
  • ステンレス鋼 16.7 – 20.9
  • 水晶(SiO2) 8
  • ガラス 1
  • 水(H2O) 0.6
  • 発泡ポリスチレン(”Styrofoam”) 0.03
  • 空気 0.0241

 熱を伝達させるための工業的に使用可能な材質は、赤字のものぐらいです。ダイヤモンドや銀の熱伝達率は高いですが、ダイヤモンドは高いのに加工性が悪いし、加工性は良いですが機械的強度が弱く、いずれも材料としての価格が高すぎます。

 水や空気は熱伝達率が低いのがわかると思います。北国では、断熱として二重窓を採用しますが、空気で断熱しているわけです。空気はガラスの約1/40程度の熱伝達率なので、効果絶大です。

 伝熱管の左右にあるスケール部分の温度勾配が一番急で、伝熱抵抗が一番大きいことがわかります。錆の熱伝達率は0.29 W・m-1・K-1なので、水の半分程度しか熱伝達率しかありません。空気ほど悪くはありませんが、錆は断熱材としての役割をしてしまいます。

 スケールの次に境膜があります。境膜は、層流状態が保たれている極薄い領域のことです。層流ということは流速がものすごく遅いということです。考え方を簡単にするため、流れが止まっていると考えてください。すると、境膜は水もしくは溶剤という名の断熱材ということになります。 液(水)側の境膜は流速によって変化します。流速が速ければ速いほど境膜は薄くなっていきます。薄ければ薄いほど断熱の効果は小さくなり伝熱の効率は良くなります。つまり、流速は速い方が伝熱にとって有利ということになります。問題は蒸気側です。蒸気側は基本的に気体で、境膜を形成しているのは凝縮した溶剤です。凝縮した溶剤は滴(しずく)なので、流速を速くして境膜を薄くすることができないので効率は悪くなってしまいます。

 総括伝熱係数というのは、伝熱管、スケール、境膜など全てをまとめた数字です。一つ一つを計算しても良いのですが、前提の上に前提を重ねて、結局は架空の数字を作り上げて、最後に安全率を掛けることとなるので、そんな苦労するなら、実績に応じた値を採用するのが現実的な方法だと思います。もしも、熱交換器の構造や材質を自分で設計するようなことがあれば、その時は一つ一つを計算して総括伝熱係数を計算してみてください。

 次回は具体的にコンデンサの冷却熱量を計算してみます。

 

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