4 分散機の冷却

 冷凍機の能力を決めるためには、冷やす対象が必要とする冷却熱量を積み上げる必要があります。

 例えば蒸留設備で使われる熱交換器だったり、空調機だったり様々ものが対象になります。たまたま私が馴染みのある分散機を対象に考えます。ここでいう分散機はサンドミルとかビーズミルとかで呼ばれるもので、顔料や磁気材料なんかをガラスやジルコニアのビーズを使って分散する装置です。

 そもそも、なぜ分散機は冷却する必要があると思いますか?
 答えは簡単です。熱くなるからです。
 一般的に、熱くなり過ぎると原料にダメージを与えたり、性状に大きな変化を与えることになるので、うまく分散できなくなります。
 触れないぐらい熱くなると機械にもダメージを与えるので、適度な温度範囲で運転できるようにする必要があります。

 具体的に分散機を冷やす方法を考えていきます。

 下表はエネルギーの単位換算表です。  単位のことは避けては通れません。私はkcal(キロカロリー)を基本にすると考え易いので、kcalを基準にします。SI単位だとJ(ジュール)とするのが正しいのですが、水で何かを冷やしたり温めたりする場合、kcalの方が便利です。kcalは水1kgを1℃温めるのに必要なエネルギーだからです。

 実際に必要な冷却熱量を考えていきましょう。

 分散ペーストの出口温度を35℃以下にしたい場合を考えます。

 分散機の入口温度が20℃だったとします(モーター容量:45kW、ミル容量:50L、比重:1.3、比熱:0.5、分散流量:200kg/hr、メジア充填率:80%、無負荷動力:20%、運転時の負荷90%)。全く冷却しなかった場合、分散機の出口温度はどうなるでしょう?

 分散機の空間容量

 (50L-50L×80%×60%)×2基 = 52L ⇒ 52L×1.3=67.6kg

 ミルベース(分散する前の分散ペースト)が分散機を通過するために必要な時間

 67.6kg÷200kg/hr = 20.28分

 ミルベースの加わった熱量

 45kW×(90%-20%)×2基×20.28分 = 21.294kW = 18312.84kcal

 分散機出口温度

 20℃+18312.84kcal/67.6kg/0.5 = 541.8℃

 火傷するどころではありませんね。 

 じゃあ、35℃以下にするならどうしたらいいでしょうか?

 冷やすことより、どこまで温めても平気なのかを先に考えます。

 20℃のミルベースを35℃に温めるために必要な熱量を先に考えます。

 67.6kg×0.5×(35-20) = 507kcal

 ミルベースに加わった熱量からこの熱量を差し引いたものが必要な冷却熱量で、これだけの熱量を奪えば、ペーストの出口温度は35℃となるわけです。

 18312.84kcal-507kcal = 17805.84kcal/20.28分 = 52680kcal/hr

 ちょっと待ってください。こんな計算に意味があると思いますか?

 約18000kcalに対して、約500kcalなので誤差みたいなものなので、そんな計算に意味はありません。投入した動力(エネルギー)分だけ冷やせばちょっと安全側の計算結果が得られます。

 回り道をしましたが、多少の条件が変化しても投入した動力(エネルギー)分だけ冷やせば、確実に安全側となるということを覚えておきましょう。厳密には塗料だったりワニスだったりの物性値がないと計算できないということも覚えておきましょう。でも、その物性値の全てが揃うことは極めて稀なので一般的な物性値で代用することになり、計算結果が危険側となる可能性があるのに、手間がかかるのでお勧めしません。厳密な計算が必要なときは頑張りましょう。

 というわけで、設計上、分散機を冷やすために必要な冷却能力(分散機から奪う熱量)を算出するのは簡単です。

 モーターの定格容量 - 無負荷動力 = 必要な冷却能力

 となります。無負荷動力は設置初期の試運転データに記載されているので、記録が残っていれば確認してみましょう。記録が残っていない場合は、測定するか、想定することになります。測定できる場合は特に問題ありません。新工場建設とかで実物が無いのに冷凍機の能力を決める場合などは測定できないので想定する必要があります。そんな時は、

 モーターの定格容量 × 80% = 必要な冷却能力

で想定しましょう。これでも経験的には安全側の数値となります。

 さっきの計算結果にあてはめてみると、

 45kW×80%×2基 = 72kW = 61920kcal/hr > 52680kcal/hr

 なぜ、モーターの定格容量を基準にしているかというと、ミルベースを加熱する熱源がモーターだからです。

 これは基本的な考え方なので、どうしても理解してください。電気にしてもガスにしても蒸気にしても、何らかのエネルギーを加えたら、そのエネルギーは保存されなくてはいけません。有名なエネルギー保存の法則です。エネルギーの収支は必ず合う必要があります。でも、難しく考えることはありません。ほとんど全てのエネルギーは最終的に熱となって大気に捨てられます。

 分散機の場合であれば、モーターによって与えられた回転エネルギーがミルベースに伝わって、分散という仕事をするわけです。でも分散に使われるエネルギーは誤差みたいなもので、それも最終的には熱に代わります。そうです。最終的にはすべて熱となって逃げてしまいます。ゆっくりエネルギー(熱)を加える場合は、冷やすのもゆっくりで大丈夫ですが、モーターとかを使って、急速にエネルギーを加える場合は、冷やすのも急ぐ必要があります。急いで冷やす方法は色々とありますが、コスパを考えると水による冷却が採用されます。

 必要な冷却熱量の計算方法がわかった(?)ところで、もうちょっとだけ掘り下げます。

 例えば50Lナノミル(45kW)がツインの仕様で3ラインある工場を設計したとすると、

 45kW/hr × 6基 × 80% = 216kW/hr = 3096kcal/min

となります。これがどんなエネルギーか直感的に分かり難い人もいると思います。例えば、216kWは288馬力です(1馬力は約0.75kW)。1時間当たり288馬力なので、1分当たりだと約5馬力です。暴れまわっている馬5頭を1分で止めるようなエネルギーです。例えば、アクセルを踏み込んだ状態のクラウンを急ブレーキで止めるようなエネルギーです。

 これだけの熱量を分散ペーストから奪うために、分散ペーストより冷たい水をジャケットに流します。冷たい水って何度?

 ここから先は、難易度UPするので、次回に説明します。

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