撹拌機マスターへの道 9
前回はニュートン流体の場合のスケールアップについて考えました。今回は非ニュートン流体が対象です。
ニュートン流体でさえ単位容積当たりの投入動力一定という条件ぐらいでしか計算できません。非ニュートン流体の場合はほぼお手上げで、都合よくスケールアップに使えるような計算式はありません。そもそも、スケールアップ以前に撹拌状態を表現できる一般化された関係式はありません。何をもって撹拌できているか一般的に定義することができないので当然だともいえます。
だからといって、闇雲にスケールアップするわけにはいきませんので、ラボスケールからの検討をすることとなります。
まずラボスケールで水準を振ることになります。
検討すべき水準はわかっています。
P/V=Np ・ ρ ・ n3 ・ d5/V
が目安となります。
撹拌翼の径d
容器の形状V(=撹拌翼との相対的形状)⇒撹拌翼からの液面高さ
回転数n
以上が変化させるパラメーターで、結果として撹拌所要動力と流動状態が得られます。容器の形状はスケールアップを想定してシンプルな形状を選定するのが無難で基本的には円筒形です。円筒形でなければ、容器の設計そのものが難しいです。重要なのは、容器の形状ではなく、撹拌翼との相対的形状なので、容器そのものは変化させずに、撹拌翼の径と液面の高さを変えることで流動状態を確認します(液面を変化させても撹拌所要動力は変化しません)。
回転数は容易に変化させることが可能なので、極低速から十分に撹拌できる条件まで変化させます。
このときポイントとなるのは、層流から乱流へ移る遷移域を通過するかもしれないと想定して測定することです。非ニュートン流体で層流域で撹拌するのは極めてまれかと思われ、十分に乱流域となっている範囲を見極める必要があります。十分に乱流域となれば測定データが安定してくること(一定の傾向が出る)が多いです。
始めは低い液面で、徐々に足して液面を変化させて流動状態を確認する。流動状態の確認は、トレーサーとなる目印を混ぜて撮影することが多いですが、比重を合わせるのが難しいことがあります。次の手としては、化学反応を使います。フェノールフタレイン溶液のように化学反応で色が変化するような試薬を用いて、試薬を滴下していくことで色の変化を確認します。必要量を滴下して色の変化が完了するまでの時間を確認するのが一般的かと思います。
一通りの実験が終われば、撹拌翼の径を変えて同様に実験を繰り返します。
以上の実験結果をグラフ化して傾向をつかみます。
確実に撹拌できる操作範囲はどこか。
効果的なパラメーターは何か。
比例関係なのか、指数関数なのか、対数なのか論理的に検討していきます。
方向性が決まれば、中間スケールや実機相当でテストして傾向が合っているかを確認します。
PCの性能が向上しているので、シミュレーションという手もありますが、モデリングは簡単ではないので費用対効果で考えましょう。
中間スケールや実機相当で確認がとれれば、特定の条件下で使える実験式が出来上がっているはずです。
非常にざっくりとした説明ですが、こんな感じの検討になるかと思います。
次回はまとめをやります。