撹拌機マスターへの道 8

前回はモーターの動力測定をやりました。今回はスケールアップについて考察します。

まず、対象の流体がニュートン流体の場合から。
基本的に撹拌機が相似形であれば、

【乱流域】P = Np ・ ρ ・ n3 ・ d5
【層流域】P = Np ・ Re ・ μ ・n2 ・ d3

でスケールに関係なく動力が求められます。
問題は回転数と撹拌翼の径をどう考えるかです。

スケールアップ考え方として単位容積当たりの投入動力P/Vというのがあります。

ラボスケールの条件を

P1/V1=Np ・ ρ ・ n13 ・ d15/V1

実機スケールの条件を

P2/V2=Np ・ ρ ・ n23 ・ d25/V2

とすると単位容積当たりの投入動力が同じということはP1/V1=P2/V2なので、

n13 ・ d15/V1=n23 ・ d25/V2

となります。さらに見やすく変形すると、

(n2/n13=(d1/d25・(V2/V1

となります。
計算を楽にするため、容器は円筒形を想定します。
前提が相似形なので、容器のサイズは

V1=π・(αd12/4・βd1=παβd13

αとβは容器の大きさを撹拌翼の径を基準に決めるための係数で、πも3.14なのでまとめて

V1=∝d13

となります。V2も同様に

V2=∝d23

V2/V1=(d2/d13

(n2/n13=(d1/d25・(V2/V1)=(d1/d25・(d2/d13=(d1/d22

n2/n1=(d1/d22/3

n2=n1(d1/d22/3

ここまでくればかなり簡単になりました。

例えば、1,000倍の容量にスケールアップする場合を想定します。

V2/V1=1,000=(d2/d13=103

n2=n1(d1/d22/3=n1(0.1)2/3=0.215×n1

となります。1Lで1000rpmのラボスケールから1,000Lへスケールアップした場合、単位容積当たりの動力を基準にすると、撹拌機と容器の形状がスケールに関係なく相似形で、ニュートン流体であれば回転数は215rpmとなります。当たり前ですが、撹拌所要動力も1,000倍になります。個人的にはあまり現実的なスケールアップではないと思います。スケールアップしているのに効率が上がらないのも感覚に合わないし、そもそも動力が大きくなり過ぎます。例えば、ラボスケールで0.1kWの動力だとしても1,000Lとするだけで100kWの動力が必要になり、タンクとモーターが同じくらいのサイズになってしまいます。

実際には、撹拌機の周速を合わせることでスケールアップを考えたり、循環回数を合わせたりして経済的な設計がされます。撹拌の対象が均相系であるなら、時間をかければ溶け合うので、小さな動力で時間をかけて撹拌するなどで、各社がノウハウをもって取り組んでいる内容となります。言い換えると、単純な手計算で対応できるのはここまでで、ここから先は実験やシミュレーションが必要になると思いまます。それでも、基本的な考え方が変わるわけではないので、動力-回転数-撹拌翼径の関係は崩さないように検討を進めることが重要です。関係が崩れることもありますが、崩れる理由を明確にしておかないとスケールアップに失敗する可能性が高まります(実験した範囲内だけで使える)。

今回はニュートン流体を対象としたスケールアップを考えました。次回は非ニュートン流体を考えます。

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