撹拌機マスターへの道 10
今回はこれまでのまとめをしておきます。
撹拌の分類
液-液系の撹拌
- 均相系
互いに可溶な液-液系。濃度、密度、温度などの物性を均一化させることや、化学成分間の反応が目的。 - 異相系
互いに完全には溶解しない液-液系。目的が多岐にわたる。より細かく分散させることが目的だったり、特定成分の分離・抽出、特定成分の反応などなど。目的が多岐にわたるため、必ずしも強力な撹拌が必要なわけでなく、適当な撹拌操作が必要。
気-液系の撹拌
- 微細気泡を液中に分散させることが目的の場合や、さらに気泡と液中成分の反応が目的の場合がある。反応が目的だと、必要とする反応速度に合わせた分散度(液中に分散した気泡の表面積)とする撹拌操作が必要。固ー液系の撹拌固体微粒子を液中に分散させることが目的の場合や、単に固体粒子の沈降防止、固体粒子の溶解や反応などが目的の場合があり、目的に合わせた撹拌操作が必要。
伝熱撹拌
- 槽内の液を加温、冷却する際に伝熱面の液境膜伝熱抵抗を減少させることが目的。早く加温、冷却したい場合は流速を上げるために頑張って混ぜる。流体力学で表現すると流速を上げることでレイノルズ数が大きくなって、液境膜伝熱抵抗が小さくなる。
粘度特性
ニュートン流体
- せん断速度によらず粘度が一定の液体。水、塩類水溶液、希薄溶液、水あめ、グリセリン、鉱物油。感覚的に液体というとコレ。流体力学で使うベルヌーイの式などはニュートン流体が前提。せん断応力とせん断速度の関係は比例関係。グラフの形は傾きが粘度の1次関数で切片は0。
非ニュートン流体
- 塑性流体(ビンガム流体)
- 擬塑性流体
- ダイラタント流体
- チクソトロピー流体
- レオペクシー流体
せん断応力の関係式
式1-1) η=μDn-1
式1-2) τ=μDn
η:みかけ粘度【Pa・s】
τ:せん断応力【Pa】
μ:粘性係数
D:せん断速度【s-1】
n:指数
速度分布
v=管内流速
va=管内平均流速
n=べき乗則流体の指数
R=円管半径
r=中心からの半径方向距離
乱流用撹拌機
放射流主体の撹拌翼
軸流主体の撹拌翼
放射流の比率を高めた後退翼
層流用撹拌機
撹拌所要動力
撹拌所要動力Pは動力数Np・液密度ρ・撹拌機の回転速度nの3乗・撹拌翼の径dの5乗に比例。
【乱流域】P = Np ・ ρ ・ n3 ・ d5
【層流域】P = Np ・ Re ・ μ ・n2 ・ d3
P:動力 [W]、ρ :密度 [kg/m3]、n:回転数 [rps]、d:翼スパン[m]
撹拌機の動力測定
動力にモーター以外のものを用いている場合はトルクを測定
P=(T×n)/9550
(モータ出力P[kW]、Tトルク[N・m]、n回転[rpm])
動力にモーターを用いている場合は電流と電圧を測定
- 直流:E=VI
- 単相:E=VIcosφ
- 三相:E=√3VIcosφ
スケールアップ
ニュートン流体で単位容積当たりの投入動力一定条件の場合
n2=n1(d1/d2)2/3
その他の場合
P/V=Np ・ ρ ・ n3 ・ d5/V
の関係式を基準に実験式を作成
以上、ここまでをまとめました。撹拌の対象が非ニュートン流体の場合、地道な実験やノウハウや経験を拡張させるしか方法がないと考えるのが妥当かと思います。でも、ニュートン流体を基本とした関係式が確立されているので、確率された関係式にあった形で検討を進めていくのが合理的です。