24 冷水送りポンプ ~シリーズ最終回~
冷凍機と冷却塔に関しては、仕様が決まりました。
前提条件を決めるのが難しいのであって、仕様そのものは難しくもなんともないことがわかってもらえたと思います。流量と揚程を決めるだけです。
残すは、冷水送りポンプの仕様だけです。
冷水、冷却水の循環ポンプもそうですが、冷水送りポンプを決めるために必要なことは、流量と揚程だけです。流量については、必要な冷却熱量が分かっているので、温度差を5℃として流量を決めるだけです。空調なんかで対数平均温度差を稼ぎたい場合は、さらに流量が必要になったりしますが、例外です。
問題は揚程です。ベルヌーイです。
速度水頭 + 圧力水頭 + 位置水頭 = 一定
運動エネルギー + 位置エネルギー = 一定
ベルヌーイの式で位置水頭は実際に運ぶ高さ方向の距離を示しています。3階建ての工場だと、最高でも3階の天井高さということになります。ざっくり15m程度です。これに配管の圧力損失を加えたものが、揚程ということになります。
既にある建物にポンプを設置する場合なんかは、建物の高さが分かるので悩む必要はありません。でも、新工場を計画するような概算段階では建物の高さが決まらない場合が多々あります。平屋なのか、4階建てなのか、階高は3mなのか5mなのか・・・、意外と悩みます。だから、昔の仕様をみると、揚程を50mとしている場合がけっこうあります。あれこれ考えずに、これだけあれば十分だろうという値です。でも、そんな考えは間違いです。じゃあどうするか考えていきます。
さすがに新工場を建設する場合、製造する製品は決まっています。製品が決まれば製造工程が決まっているはずで、重力を最大限つかった製造工程(=上から下に流れる工程)を想定すれば、1工程で1階ぐらいが最大値になると思います。製造工程が4工程なら工場は4階建て、階高が5mであれば、4階の天井高は20mとなります。階高については、平均すれば5mを超えるようなことはほとんどありません。平均と表現しているのは、建築側としては、階高を低くしたいのではなく、建屋の高さを低くして、できるだけ建築コストを下げたいからです。1階だけ階高5.5mでその他は4mとかというパターンもあります。高さが10mを超えるようなものもあるとは思いますが、そういう場合は、建屋内に吹き抜け部を作ってレイアウトすることになるのではないでしょうか。
というわけで、高さ方向の揚程(実揚程)は20mとしておけば十分ということになります。階高が決まっていて、設備のレイアウトまで決まっている場合は、実際に配置に合わせた実揚程で考えればOKです。例えば、明らかにポンプを据え付ける高さと送液先の高さが同じか、送液先の方が低ければ、実揚程を考慮する必要はありません。何も決まっていない状況だからこそ、最大の安全値である20mとして考えます。
次に配管の圧力損失です。
更新工事で既設の配管を使う場合は、実際に圧力を測定すればOKです。計算するより楽で確実です。それに、圧力を測定すれば、実揚程と配管の圧力損失を同時に考慮できるので一石二鳥です。
問題は、全くの新設、しかも建屋から建てる場合で、設備レイアウトも何も決まっていない状態でポンプの仕様を決める時です。
実揚程は20mとしておけばOKです。問題は配管の圧力損失です。 配管の圧力損失をまじめに計算したことがあれば、大変だということを知っていると思います。大変だから、ついつい手を抜いて、『だいたいこれぐらいだから、エルボーは○個ぐらいかな』なんて具合に適当に決めてしまいます。どうせ適当に決めるなら、思い切って適当に決めるのが私流です。でも、それなりに根拠は持っています。それが、次のグラフです。
水とか溶剤のようにサラっとした液体の場合、流速を2m/sとします。これ以上流速をあげると圧力損失が急激に上がります。
流速を2m/sとした場合、それぞれの配管口径毎に圧力損失が0.1MPaとなる配管の長さを示したのが上図です。だいたい、配管口径をメートルに読み替えた場合(50Aなら50m)、その約3倍の距離になると0.1MPaになります。配管の圧力損失は配管の長さに比例するので、0.2MPaとなるのは、約6倍ということになります。 例えば、工場そのものが42m×43m×15mの場合、どんなルートを通るにしても配管の長さは最大で片道100mです。冷水配管は往復するので、その2倍の200mが最大距離となります。実際には、これより短くなるはずなので、エルボーとかの継手による圧力損失がこれに含まれると考えてください。ということは、とりあえず配管長さは200mぐらいで考えておけばOKということです。よって、冷水の流量が決まってさえすれば、配管口径を流速が2m/s以下となるように決めて、配管長を最大でも200mとして考えておけば配管の圧力損失を見込めるということです。
さらにいうなら、常識的なところで、配管を設計すると、冷水配管の圧力損失は0.1MPa以下ぐらいになります。これに各機器の圧力損失と実揚程が加わって、合計で0.35MPaぐらいというのが妥当だと私は考えています。そんなわけで、建屋について何一つ決まっていなくて、配管長の予想もできない場合は悩んでも仕方ないので、揚程を0.35MPaとしてしまいます。あらかじめ特殊事情が分かっている場合は考慮しなくてはいけません。
これで冷水送りポンプと冷水、冷却水循環ポンプの揚程が決まりました。
冷水送りポンプ:0.35MPa
冷水、冷却水循環ポンプ:0.2MPa
配管レイアウトがビシっと決まっている場合は、頑張って配管の圧力損失を計算しましょう。
これは、前提条件が全く決まっていない場合の目安です。工場が異常に広い場合や、法的制約で別棟にポンプを設置する必要がある場合で、配管が長くなるのであれば、それだけ圧力損失が大きくなります。
必要な冷却熱量も決まっているので、温度差5℃とすれば冷水流量も決まります。
特に正解があるわけではありませんが、
1F空調用:343,467kcal/hr×0.5 ⇒ 572L/min
2,3F空調用:343,467kcal/hr×0.5 ⇒ 572L/min
塗装フーズ用:148,972kcal/hr ⇒ 497L/min
昼間分散用:120,400kcal/hr ⇒ 401L/min
夜間分散用A:203,098kcal/hr×0.6 ⇒ 677L/min 夜間分散用B:203,098kcal/hr ×0.6⇒ 677L/min
とりあえず、こんな感じでポンプを分けます。
あとは、性能曲線からポンプを選定するだけです。配管口径を決めることもできます。
ここまできたら、最後は簡単です。
これでポンプの単体価格も決めることができるし、基数もわかる、モーター容量も分かるので電気関係の仕様も決まる、配管口径も決まるので配管工事の概算費用も分かるので、冷却に関してほとんどのことを想定できるようになります。けっこうすごい!
ここまで説明してきた内容は、私の経験を基に実用的なところだけをかいつまんだもので、天の声で『明日までに概算出して』とか言われた場合には、使える程度のものです。みなさんも各自の経験を活かして、自分なりの考え方を構築し、できれば若手に教えてあげられるように、指摘してあげられるようになりましょう。