18 凝縮潜熱
前回は総括伝熱係数からみた冷却能力の計算方法を説明しました。
新設の場合は、必要に応じて、最適な仕様のものを製作すれば良く、既設更新の場合は、総括伝熱係数および伝熱面積が決まっているので、対数平均温度差を考慮すれば、冷却熱量と冷水流量を求めることができます。
伝熱量Q=総括伝熱係数U×伝熱面積A×対数平均温度差ΔT
今回は、凝縮潜熱からみた冷却熱量の計算方法を説明します。
コンデンサの目的は凝縮(蒸発した水や溶剤を液体に戻す)することにあるので、総括伝熱係数を無視して、必要な冷却熱量を計算することができます。新設の場合は、必要な冷却熱量を計算してからコンデンサの仕様を決めていきます。
まったくの新規計画で過去に経験のない仕様であれば別ですが、私の職場では実績がある場合や仕様が近似している場合は設計仕様が出てこない場合が多いので、自ら検算して妥当か確認する必要があります。仕様ミスには製作段階で気付きますが、予算取り段階で大失敗したり、冷凍機やボイラーの容量が不足していたり、配管口径が細かったり、致命傷になりかねないので注意が必要です。
具体的にコンデンサに必要な冷却熱量を計算していきます。
コンデンサの必要な冷却熱量は溶剤蒸気を凝縮するために必要な熱量と言い換えることができます。溶剤蒸気の潜熱が求めようとしている必要な冷却熱量ということになります。
次の表は各種液体の温度と蒸発潜熱(蒸発熱とか気化熱と表記されたりもします)の表です。
液体によって蒸発潜熱が大きく違うことに注目しましょう。 複数の溶剤が配合されている場合は、単純に蒸発潜熱を決めることができません。そんなときは、蒸発(凝縮)させたい溶剤もしくは、配合の比率が最も多い溶剤の蒸発潜熱を代表値として使います。
溶剤の配合比率が1:1とかの場合は代表値で代用して良いとは言い切れません。前提条件となる溶剤種もしくは蒸発潜熱については、製品の設計者に確認するようにしましょう。配合が分かれば、前提条件が妥当かどうか判断できる(しようと思えばできる)ので、配合を取り寄せて、自分で検証するというのも手段の一つです。例えば、トルエンとキシレンでは、トルエンの方が少しだけ蒸発潜熱は大きいので、トルエンを選択しておけば安全側です。でも、トルエンとH-3(イソプロピルアルコール、イソプロパノール)は2倍ぐらいの差があって、H-3を前提条件にするべきところを右に倣えと、トルエンを選択すると冷却能力が不足することになってしまいます。
凝縮する溶剤の種別がわかれば、蒸発潜熱がわかる(調べることができる)ので、凝縮する溶剤の量が分かれば、必要な冷却熱量が計算できます。空調でいうところの、比エンタルピーに風量を掛けて冷却熱量を計算するのと同じです。
コンデンサを通る溶剤蒸気は、真空ポンプで強制的に排気されているものなので、真空ポンプの能力を基準に風量を想定することで計算ができます。
計算例
標準状態(0℃、1気圧)においてトルエンの密度は0.862mg/cm3なので、モル密度(1モル当たりの密度)は92.1g/molとなります。モル体積(1モル当たりの体積)は22.4L/molです。
トルエンを沸点まで加熱した環境として、110.6℃、1気圧を想定します。
ボイル・シャルルの法則から、1モル当たりの体積は31.5L/molとなります。真空ポンプの排気風量7.95m3/minは253mol/minにでき、さらに23.3kg/min⇒1396kg/hrにできます。トルエンの蒸発潜熱は363kJ/kgなので、
1396kg/hr × 363kJ/kg = 506748kJ/hr = 121113kcal/hr
となります。これが必要な冷却熱量になります。これを温度差5℃で冷水流量にしてみると、403.7L/minとなります。
排気風量を基準にすると、こんな感じですが凝縮させたい量を基準に計算することもできます。凝縮させたい量が決まっていれば、そのまま蒸発潜熱を掛ければ必要な冷却熱量が計算できます。また、凝縮させたい量をモルに換算して、排気風量とすることもできるので、真空ポンプの仕様をきめることもできます。
必要な冷却熱量が決まれば、総括伝熱係数と対数平均温度差からコンデンサで必要な伝熱面積が計算できます。例えば、総括伝熱係数を300 cal/m2・K・hr、対数平均温度差を20℃とした場合、必要な伝熱面積は
伝熱面積A=必要な冷却熱量Q÷総括伝熱係数U÷対数平均温度差ΔT
=121113kcal/hr ÷ 300 cal/m2・K・hr ÷ 20℃
=20.18m2
となります。そんなに的外れな値ではないと思います。
以上でコンデンサの説明を終わります。
次回から、冷凍機の能力を決めて、本題であるポンプの選定をしていきます。