11 空調機の冷却熱量 ~温湿度条件~

 湿り空気線図線図を使えば比エンタルピーから空調能力の計算ができます。重要なのは、空調といえば湿り空気線図ということが頭をよぎるかどうかです。頭の片隅に入れておきましょう。

 肝心の前提条件の決め方を考えていきましょう。

 これは正解がある場合と正解のない場合があるので、まずはそこの見極めから。

 正解がある場合は、使用用途で温湿度に条件がある場合です。私個人の経験では次の3パターンです。この他で特に温湿度の指定を受けたことはあんまりありません。いずれの場合も、非危険物エリアの場合は、既製品の導入ということになります。既製品はよく考えられていて、空間容積と温湿度を指定すれば、後のことはお任せ。問題は危険物エリアの場合です。

  • 塗装ブース
  • 倉庫
  • 試験室(恒温または恒温恒湿室など)

 塗装ブースに関しては、厳密な意味で危険物エリアではありません。自衛上の危険物エリアということになります。ボヤ程度の事故は頻発していますが、大手自動車メーカーの塗装ラインが爆発するとかの大事故が発生すれば、法律も厳しくなるでしょう。

 塗装ブースの方式はいくつかありますが、まじめに温湿度管理をしようとすると、プッシュプル方式を採用することになります。プッシュプル方式は簡単にいうと、給気と排気の設備が別々にあって、バランスをとりながら給排気を行う方式です。

 湿り空気線図から比エンタルピーの差を読み取ることは説明しましたが、目標とする温湿度はわかっていても、スタートがわかりません。空気1kg当たりの冷却熱量がわかったとしても、どのくらいの空気を冷却することになるのかもわかりません。今回はその決め方を説明します。

 まず、スタートの決め方を考えましょう。

 基本的には、最も過酷な条件としたいです。日本国内であれば、気象庁のホームページ等で気象データを取得できますが、そのままでは使えません。特に夏場の条件は・・・。

 例えば、年間最高気温は気象庁のデータから知ることができます。この最高気温は小学生のときに学んだように、百葉箱の中で測定した値なので、実際の気温とは若干異なります。恐らく、実際よりは低めになっていると思います。 次に湿度です。当然、雨が降った方が湿度は高くなるような気がしませんか?仮に雨が降ると湿度が100%になるとします。豪雨のときと通り雨で小雨のときとでは、どちらの気温が高くなると思いますか?たぶん、通り雨のときでしょう。湿度が同じ100%なら、気温の高い方が空気の比エンタルピーは高くなるので、くそ暑いときの通り雨が最も過酷な条件ということになります。

 気象庁のデータを見ても、そんな条件は記載されていません。

 そろそろ気付いたのではないでしょうか?そうです。気象庁のデータを見ても、実際の最高気温もわからなければ、湿度も決まらないので、最も過酷な条件は不明なままです。スタートできません。では、どうすればいいか? 簡単です。勝手に決めればいいんです。

 2012年の神戸を例に決めていきます。

 2012年神戸市の最高気温は8月3日の約37℃でした。この日の天気は晴れで、湿度は58%だったらしいです。雨が降ると気温も下がりますが、湿度は7月に88%という日がありました。というわけで、私はスタートの気象条件を37℃、88%とします。

  湿度が58%から88%にあがることで、比エンタルピーはどの程度違うか確認してみましょう。

 

 37℃、88%は湿り空気線図からはみ出ました。

 はみ出したところは、破線で延ばして考えます。外挿という手法です。外挿して良い場合と悪い場合があるので、無闇に外挿してはいけません。今回の場合は良い場合です。逆の手法で内挿という手法があります。

 ざっくりと比エンタルピーで約30kJ/kg[DA]の差があります。約3割UPなので、無視できる差ではありません。

 こんな感じで条件を決めれば、かなり余裕があるような気もするし、実際の気象データを参考にしているから根拠の説明もできます。条件の決め方として、この方法が正解というわけではありませんので、みなさん流の方法を見つけてみましょう。

 日本国内であれば、気象データが簡単に入手できるのでなんとかなります。海外はどうしましょう?海外は気象データそのものを国家機密にしていたりします。純粋に気象データの観測体制が不十分だったりもします。そうなると、想像するしかありません。日本と国交があるればインターネットを活用すれば詳細とはいえませんが、最高、最低気温と雨が多いか少ないかぐらいはわかります。最高気温さえわかれば、湿度を想像するだけです。後はセンスです。雨がほとんど降らないのに湿度を高く見積もるのは無駄です。そんなとき、私は80%として考えます。雨は降らなくても、曇ると80%ぐらいまで湿度が上がるからです。正解かどうかは別にしてご参考に。

 スタートの温湿度を決めました。次回は風量の決め方を説明します。

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